外食企業のSDGsへの取り組み方【事業の発展のために】
前回は外食企業におけるSDGsへの取り組み事例を18のテーマに沿ってご紹介しました。SDGsに対する認知は急速に広まっており大企業に限らず中小企業でもその取り組みが進められています。そうした中でSDGsへの取り組みが企業イメージを左右し消費者行動までにも影響を及ぼし始めている実態があるのです。あるいは、経営資源に余裕がない中小企業、個人経営店では取り組みを進めづらいと考える向きもあるかもしれません。しかし自社の強みをしっかり活かし、相乗効果の期待できる取り組みとすることで経営面でも十分に成果が期待でき、社会貢献も果たすことのできる、そうしたSDGsへの取り組みを進めなくてはならないと考えています。本稿では、目次
広がりを見せるSDGsの認知と取り組み
SDGsという言葉に対する認知は近年急速に高まっているといえます。Google検索のトレンドやアンケート調査、さらには企業のホームページにおける力の入れようからもこれは明かと言えるでしょう。検索ニーズが高まっている
GoogleTrends-「SDGs」日本上記グラフからSDGsというキーワードのトレンドがこの2年ほどで大きく高まっていることがお分かりいただけるかと思います。国連サミットでのSDGsの採択は2015年のことでしたが、SDGsをキーワードとした検索数は2019年に入ってから上昇ペースが強くなりました。特に2020年後半からのトレンドは強く、2021年6月にはG7コーンウォール・サミット等での気候変動に対する発信もあったことから検索トレンドはピークを見せています。GoogleTrends-「SDGs」「働き方改革」日本同様に経済界を席巻したトレンドワードとして「働き方改革」との比較を行ってみました。「働き方改革」の検索トレンドのピークは2018年6月になるのですが、「SDGs」のトレンドピークではこれの3倍近い勢いがあることが伺えます。企業意識が高まっている
帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査(2021年)」こちらは帝国データバンクが行っているアンケート調査のレポートになります。全国1万1109社から回答を得ており、この調査は前年に続き今回が2回目となります。この調査によるとSDGsに積極的な姿勢を見せる企業は39.7%で前回調査から5割近い伸びを見せました。レポート内では「SDGsに取り組んでいない企業」が5割近くあることが強調されていましたが、反面、この2年ほどのトレンドの中で既に半数近くの企業が取り組みに積極姿勢を見せているとも言えます。また「知らない」「分からない」という回答が大きく減少していることからも企業担当者の認知の高まりが伺えます。企業規模別では大企業と中小企業、小規模企業間で開きがみられますがそれでも中小企業、小規模企業とも3割近くの企業が積極姿勢を見せています。各社ホームページでの発信を強めている
そのような中、外食企業各社が取り組み(前回の記事)を進めていますが同時にそうした取り組みについての発信も強めてきています。企業広報あるいはIRの一環としてページが作り込まれ、具体的かつ定量的な報告がされている企業として次の2社をご紹介させていただきます。外食企業IRサイト株式会社トリドールホールディングス(https://www.toridoll.com/csr/)株式会社すかいらーくホールディングス(https://www.skylark.co.jp/csr/)SDGsへ取り組むメリット
ここまでみたように急速なトレンドの高まりを見せているSDGsですが、取り組みを通じた経営上のメリットを見いだせなければ費用も人材もそこに充てることができません。果たして経営上のメリットは見出せるのでしょうか。ここでは次の3つの観点からそのメリットを考えたいと思います。- 企業イメージへの影響
- 消費者行動への影響
- 投資家への影響
企業イメージへの影響
株式会社電通「第4回SDGsに関する生活者調査」こちらは2021年1月に全国の生活者を対象としたインターネット調査の概要です。回答数は1400となっています。これによるとSDGsの認知率は54.2%で前年に行われた第3回調査から倍近い増加となっています。さらに調査概要によると「SDGs活動を知るとその企業イメージがよくなる」と答えた方は全体でも74.9%とかなり高い水準にあります。今後さらにSDGsの認知拡大が見込まれるとすると、活動の実施状況とその発信状況が企業イメージを大きく左右するといえるでしょう。またSDGsに積極的に取り組む企業のイメージとして”社会からの信頼”、”社員の会社への愛着”、”優秀な人材の確保”があげられており、これは学生のSDGsに対する認知度の高さも相まって人事戦略にも好影響が期待できると思われます。消費者行動への影響
朝日新聞「2030SDGsで変える 第7回SDGs認知度調査」こちらは朝日新聞の特設サイトから、2020年12月に行われたインターネット調査の概要です。回答数は5000となっています。先程の電通の調査同様に認知度は前回から大きな上昇を見せています。中でも「SDGsに関する取り組みを企業や団体、または個人として行っているか」、または「今後取り組みたいと思っているか」については「SDGsという言葉を聞いたことがある」回答者のうち約6割が既に行っているもしくは今後取り組みたいと回答しています。取り組みの内容としては「個人の身の回りの取り組み」の回答者が約半数と高いほか、企業や自治体の活動への関心も3割近くが示すという結果になっています。未だ企業側の具体的活動も情報発信も十分ではないかもしれませんが、企業のSDGsへの取り組み姿勢が企業イメージを左右し、消費者の行動も左右するようになる、そんな社会が目前に迫ってきているのではないでしょうか。投資家への影響
日本サステナブル投資フォーラム「“Global Sustainable Investment Review 2020”が公開されました。」投資家目線から見たSDGsに関連する内容としてはサステナブル投資があります。投資の判断にあたり環境保護、社会貢献、人権尊重などをへの取り組みを重視するものでGSIAという国際機関がその普及に努めています。リンク先はそのGSIAの2020年度レポートの日本語版となります。これによるとサステナブル投資は全世界の運用資産の35%を占めており、2018年からの2年間で全世界では2.5%の上昇となりました。日本でもこの比率は24%、2018年から6%の上昇となっており、投資家、特に機関投資家の関心の高まりが伺えます。これまでのような投資回収に基づく経済性の判断だけではなく、企業のSDGsへの取り組み姿勢が資金調達を左右するような状況になりつつあるのです。SDGsのような企業による社会貢献の枠組みとしては、メセナ(芸術文化支援)やCSR(企業の社会的責任)がありますが、これらはどちらかというと見返りを期待しない、企業の利益分配の一環として行われるようなところがありました。大企業、高収益企業に限られた取り組みで、何をどのように取り組むのかについても企業が主体で考え、社会からの要請などは薄い傾向にあったと考えられています。しかしSDGsについては、その目的が人類共通の課題解決であり、差し迫った危機が具体的に捉えられている以上、社会全体から企業活動全般に対し具体的な活動が求められていると捉えられるのです。したがってSDGsに具体的に、他社に先んじて取り組むことは企業規模や業種にかかわらずメリットを見出すことができます。逆に取り組みが遅れることで将来的に不利益を蒙る可能性が高まるとも考えられるのです。SDGsへの取り組み方
企業での取り組みが進まない理由としてコストや人手とともにあげられるのが”テーマが絞りきれない”という問題があります。SDGsへの認知・関心の高まりは理解できました、取り組むメリットもあるのでしょう、しかし何にどのように取り組めば良いのでしょうか。SDGsについて学ぶ
何はともあれSDGsの全体像を掴まなくては始まりません。
書店などには入門書が平積みになっていますしWeb検索をかけても多くの記事を読むことができます。また動画サイトでも解説動画が多く出回っています。広く食品業界の取り組みを知るなら農林水産省のホームページを参照しましょう。消費者目線の取り組みであれば消費者庁のホームページから見ていくのが良いと思います。そうして問題の背景や課題の全体像、身近な取り組み事例を学ことからはじめてください。取り組みを進める中で判断に迷うときが出てくると思います。そうした時にするべきことは2つ、原理原則に立ち返るか、事例を参考にするかです。”その時”に備えるためにも、まずは学ぶことから始めましょう。自社の強みに基づいて優先順位を決める
自社の強みを活かし最大の成果をあげましょう
SDGsについて学習し理解し、17の目標についても把握しました。食品業界、外食業界での取り組みも見てきました。次は、これを自社の活動に紐づけていきます。それも自社の強みに優先課題をおいていきます。プロジェクトを立ち上げる
キックオフミーティングをしましょう
取り組みの優先順位を決めたら次はプロジェクトの立ち上げです。プロジェクトチームを編成し、目的と目標、活動期限を定めます。キックオフミーティングにてこれらを周知し、メンバーの理解と貢献を求めます。これまでの事業活動とは異なる活動を新たに始めるためチームメンバーが一部門、一部署内に限られることはないでしょう。例えば調達の取り組みであっても商品開発や店舗運営担当の参画が不可欠になってきます。財務への影響を計るためには計数担当者が必要になってきます。そして何より、社内で前例の無い取り組みを進めるには経営陣からの参画が重要になってきます。”目的”は何か、自社の経営理念やビジョンにこの取り組みがなぜ、いかに合致するのかを表現します。新しいことは常にめんどくさいこと、リスクのあることです。それでもその手間やリスクをとるのかと問われた時に立ち返るのがこの”目的”になります。プロジェクトが進行し個別具体論が、手間とリスクが明らかになってくるほど”目的”の重要性は増してくるのです。目標と活動期限は事例を参考に”とりあえず”のものを置くしかない場合が多いと思います。これが決められないから進められない、のではなく仮に設定をしておいて後で確定させるという進め方です。SDGsは認知と取り組みが進んできているとはいえ活動事例の蓄積はまだまだこれからの状態です。自社である程度検討を進めてメンバーが手触り感を持てるようになってから改めて目標と期限をコミットしたほうが良いでしょう。経営を巻き込み進捗管理を行う
経営幹部が我関せずとならないようにしましょう
プロジェクトが立ち上がったら細かなタスクに分解し、それぞれに担当と期限を決めて進めていくことになります。進捗管理Mtgを定例化し問題解決とチームの一体感醸成を図っていきます。チームには経営陣も参画していることと思いますが、取締役会等で改めて進捗報告をしてもらうようにします。これは社内の他の活動との衝突や重複を避けるため、あるいは社内全体での取り組みの浸透を図るためでもあります。通常の業務であれば他部署への影響や個人からの反応が予想しやすく連携もしやすいのですが、今回のような新たな取り組みでは思わぬ影響、思わぬ横やりが入ってくるものです。こうした衝突が突然明らかになって慌てないためにも経営全体とのコミュニケーションが欠かせないのです。社内外へ発信する
活動を知ってもらう取り組みが欠かせません
飲食業はお客様のテーブルの上で表現するものが全て、という考え方はあるのですがただ美味しくてお値打ちならそれでいいという時代ではなくなってきているのも事実だと思います。体験価値という言葉が出回るようになって久しいですが、そのお店の事業に対する考え方、経営者の想い、食材が店に至るまで、店舗がそこにできるまでのストーリーも含めてご提供しての体験かちでは無いでしょうか。こと新型コロナ感染拡大の中で”不要不急の外食”がクローズアップされてきました。今後もその記憶が残る中で、中食でも内食でもない外食の意義の一つがそうした体験価値の中に見出されてくるのだと思います。であるならば、自社のSDGsの取り組みもまた、店内販促物やホームページ、SNSなどを通じてお客様と社会に対して発信をしていかなくてはならないと思います。同時に従業員もまた生活者の目線でSDGsへの関心が高まってきていると考えられます。そうした興味関心に応えながら、自社の取り組みを強く進めるためにも社内従業員への発信もまた重要な取り組みになってくるでしょう。社内外で内容を分けて作る必要は必ずしもありません。お客様向け発信内容を朝礼や休憩室の掲示等で説明するだけでも十分意味のあることだと思います。事業の発展のために
今後、企業に対するSDGsへの取り組みは社会的に強い要請となってくることが予測されます。内容の理解がさらに進み、消費者の商品を選ぶ基準、投資家の投資判断、さらに行政の対応への影響は増してくることでしょう。それは飲食業、中小企業、小規模事業も例外ではありません。しかし目についたものを何でも手間と費用をかけてやれば良いという話ではありません。自社の強みに立脚した取り組みとして、強みを維持しさらに強化する取り組みとして進めることが不可欠だと考えています。今一度、事業の理念、目的と照らし合わせてSDGsへの取り組みの意義を見出すこと、強みと弱みを俯瞰し課題を絞り込むことに取り組まれてはいかがでしょうか。事業戦略、事業計画策定ご支援についてのご相談・お問い合わせはこちらから、まずはお気軽にご連絡ください。